イラン(2)
2010年10月6日〜12日
昨年に続きタイヨウベニシタバ(Catocala lesbia)を求めて。
6日、エミレーツ航空の重量制限ぎりぎりの手荷物30kg、機内持ち込み7kgで、関空から経由するドバイへ。今年は、100W水銀燈と発電機を持って行くので、蛾の飛来量は期待できそう。
ドバイで早速、試練。割れるといやなのでいつも機内持ち込みにしている水銀燈の電球をテヘラン行きに持ち込めないといわれた。このままでは機能しない発電機は鉄の塊になってしまうとめちゃめちゃごねて、警察とも交渉。いったんUAEに入国し、手荷物として預けるならいいということになった。しかし、これは航空会社的にはかなりイレギュラーで、その後の手続きがうまく進まずタイムアップ。泣く泣くあきらめそうになったのだが、大きな空港なのでさっきとは違う検問所から入ってみる。やはり怖い顔で止められ、別の人に「調べろ」と命じる。しかし、ここからがラッキーだった。やる気のなさそうなお姉さんは、なぜか小さな袋に入った雨具が怪しいと思ったようで、中身の雨具を見せて無事通過。うれしくて、にやにやしそうなのを懸命にこらえて立ち去る。
7日、テヘランでは入国時、国内線に乗る時に発電機をチェックされるが、無事Shirazへ。迎えの車はちゃんと来ており、昨年も行ったYasujへ。今年はlesbiaの記録が集中しているYasujで4晩採集する予定だ。Yasujまでは150km位で、順調に街に着いたのだが、予約してあるホテルを探すのに30分くらいかかる。ホテルで昨年お世話になったアハマドさんとやっと再会。日が暮れてしまったので、すぐ採集に行きたいというが、写真が趣味の友達が同行したいというので、迎えに行くという。しようがなくさらに30分遅れて出発。
昨年のYasuj1日目と同じ場所へ(標高1900m)。日没から2時間経ち砂漠は急に気温が下がる。急いで発電機を回すと、グツグツとこれまで聞いたことのない元気のない音が。水銀燈は数分で消える。ガソリンの質が悪いらしい。つけても消えるを繰り返すが、そのうち調子が出てきてなかなか消えなくなった。それにしても水銀燈を100Wにしてよかった。200Wならつかないところだった。
気温が低い割にやはり水銀燈の威力か、モンヤガを中心に飛来数は多い。というかほとんどモンヤガだ。と思っているとベニ系が飛来。残念ながらlesbiaではない。帰ってから同定したのだが、トルコオニベニシタバ(Catocala
mesopotamica)だった。トルコからイランにかけて分布し幼虫の植樹はブナ科と予想される(本HP)。ややボロとボロ2頭が飛来。
8日、YasujからSisakhtの方向へ向かったSerizへ(標高1700m)。この日は昼間ずっと日に当てておいたバナナトラップをしかける。川沿いに遊牧民が通る小道がありしかけやすい。モンヤガなど、少数が来た。この日の燈火は飛来数は多かったが、やはり気温が下がってくると少なくなる。カトカラはベニ系を少なくとも2回は見たが、コウモリに食われたのか見失う。この日は特にコウモリが多かった。
9日、SerizからさらにSisakhtの方向へ標高を上げたKariakへ(標高2000m)。村の人家の脇で、小さな枯れ川の近くで採集する。人家の脇なので、アハマドさんのKariakの知り合いから土地の持ち主に話をしてもらう。バナナトラップは、日に日に飛来量は増える。いい具合に発酵してくるらしい。標高が高いためか前日ほど燈火の飛来量は多くない。寒い。キイロキリガに似た蛾が来るなど、秋のキリガの出始めという時期なのか。カトカラは見なかった。
10日、Yasujから南東のGanjeeへ(標高1900m)。昼飯でも食べた川魚の養殖所のそばで採集する。養殖所の人もフレンドリーで紅茶を出してくれた。下見の失敗で、よく見ると面した林の幅は非常に薄い。案の定、過去3日に比べ燈火の飛来量は、明らかに少ない。
燈火をつけてしばらくするとついに発電機がダウン。アハマドさんによれば、これはガソリンに水が混じっているからということで、ガソリンをバケツにもどして上澄みの水を捨てると蘇った。30分に一度はダウンするが、この作業を繰り返しなんとかしのいだ。
Mesoptamicaのボロが1頭飛来。バナナトラップは、この日も飛来量は多かった。そして、やっとカトカラも1頭来た。帰ってから同定したのだが、オオベニシタバ(Catocala elocata)
だった。ヨーロッパからイランにかけて広く分布する大型のベニシタバで、食樹はおそらくヤナギ類(本HP)。
アハマドさん一族が遊びに来た。蛾幕の前で、絨毯を敷いてパン、ナン、果物などを囲んだ。イラン人は野外で絨毯を敷いて、食べたり飲んだりするのが好きだ。蛾を採ったり三角紙に包んだりすると、珍しそうに喜んでいて、いろいろ質問された。手作りパン、小さなリンゴなど、おいしかった。
4晩の採集が終了。今年もlesbiaは採れず、カトカラは昨年とは違う2種という成果だった。Lesbiaの記録は10月に多いのだが、他のカトカラにはやはり遅いらしく、ボロばかりだった。
帰りは関空で、発電機はX線を通された。帰ってしばらくするとドバイで爆破事件が起こったし、発電機と水銀燈を持ち込むには厳しい時代のようだ。持ち込めるかどうかは運だといえよう。
流行りの戦場カメラマンも言っているが、現地ガイドはたいへん重要だと改めて思った。蛾に詳しい人はいないが、現地の治安などは地民しかわからない。アハマドさんのおかげで、空港以外では快適な採集だった。昨年のように暑くなく、寒いくらいで蛾幕で飲む熱い紅茶がおいしかった。ビールを飲みたいとそれほど思わなかった。
今年はYasujの博物館に行って、標本を見せてもらったりもした。トラフキシタバ(Catocala abacta)などもあった。ネイチャーガイド本、四季のポスターをもらって、ポスターは部屋に貼ってある。
ということで、私は田舎町Yasujのファンに。またこの町にもどってくるだろう。
イラン
2009年7月19日〜25日
20日、10時25分、テヘラン・イマーム・ホメイニ空港着。今回の採集は、後翅がオレンジで、裏面が黄色の巨大なカトカラ、タイヨウベニシタバ(Catocala lesbia)が第一目標。ガイド兼運転手のレザーの車で、Esfahanの方向へ約300キロ離れたlesbiaの記録のあるNatanzを目指す。
草がところどころにしか生えていない岩石砂漠が続く。暑い。車はメイド・イン・イラン。冷房があまり効かないようで、窓を開けて走る。経験したことがない暑さだった。途中、飯屋で昼飯を食べるが、飯屋の人は、今日は48℃だと言っていた。
Natanzの街でレザーの知り合いと合流する。現地をよく知る人がいると心強い。まったくの砂漠なので、とにかくオアシス、木の生えているところを探さなければならないのだが、希望を伝えると、すぐに連れて行ってくれた。Natanzの街から標高を上げた村部で、河原に下りて下見をする(標高約1600メートル)。ジャノメ、シジミ、ホソオチョウ?など、チョウも多い。
河原の木にバナナトラップを仕掛ける。イランは、酒は厳禁なので、現地でバナナを買い、イースト菌で発酵させた。ただ、乾燥しているからか、発酵具合は、いまいち。
燈火は、乾電池式の6W×4本+キャンプ用電球。飛来量は多くなく、カトカラは飛来しなかった。村のモスクに水銀等がギンギンに点いており、その影響か。
バナナトラップには、C.neonymphaが4頭。カトカラは1種のみで、他にヤガ、メイガなどを数種、採集した。砂漠のカトカラもバナナに集まることがわかった。昼は暑いが、夜は涼しい。
21日、Esfahanの街を越えて、150キロ南のやはりlesbiaの記録のあるSemiromへ。
ホテルの若い兄さんに、河原に案内してもらう(標高約2600メートル)。バナナトラップはゼロ。燈火への飛来も少なかった。場所は悪くないと思うが、地元の人によれば、昨夜より涼しいらしい。そのせいか。
リンゴ畑の横で燈火をしたのだが、畑の持ち主に怒られた。別の持ち主はいいと言って、リンゴも食べていいといったのだが、その人のいとこが来てダメといわれた。レザーが、その人の家まで行って説明し、なんとか継続できた。
また、ここは夜11時を過ぎるとオオカミが出るというので、バナナトラップの回収は次の日に。
22日、さらに100キロ南のYasujへ。山岳地帯を越えていく。遊牧民が多い。Yasujに近づくと、まったくの砂漠から、オアシスでないところでもけっこう大きなカシ(Aleppo oak)がまばらに生える植生に変わる。
Yasujに到着。Yasujを中心に何カ所もlesbiaの記録がある。ここでもレザーの知り合いのガイドを雇う。かなりの年だが、道から川まで一緒に歩いて下りたら、帰りはついていけない。実は、山岳ガイドだった。すぐに街の近くの非常にいい河原に案内してくれた(標高約1900メートル)。
河原でバナナトラップをしかけるが、ほぼゼロ。燈火には、C.puerperaが3頭、C.wolfiが2頭飛来した。その他の蛾も飛来量はまずまず。気温は最近の中で高いそうだ。
23日、昨日とは違う場所だが、やはりYasujの街に近い河原で採集する。
昨日と同様の気候だが、燈火の飛来量は少ない。バナナトラップは、この日もゼロ。トラップを見回っていると近くでたくさんの野犬が吠え、そそくさと燈火にもどる。と、蛾幕に大きなカトカラが。ザックからネットを出している間に舞い上がった。と、見上げるとコウモリが来た。口に入るまでは見なかったが、食われたようだ。逃げた魚は大きく、ひょっとしてlesbia、と今も悔やみ続ける。
その後は、wolfiが1頭飛来しただけで、しかも逃げられる。結局、最終日は、カトカラはゼロだった。
今回は、lesbiaが採れず、たいへん残念。カトカラは3種だった。色の感じは、乾燥地の風合いがある。
カトカラ以外の蛾もある程度採ってきた。もちろん日本で夜間採集をするほどの種類は飛来しないが、砂漠のなかの本当に限られたオアシスに多くの種類がいることに驚いた。
しかし、オアシスには必ず人も住んでいて、村があり、畑も近いことが多い。村人に何をやっているか説明できるようにガイドは不可欠なようだ。
今回の採集の前、政治的な混乱があったが、田舎の治安に関してはまったく問題ないようだ。日本より治安はよいかもしれない。警察がしっかりしている。その分警察は怖そうで、もし警察に呼び止められたときにもガイドは頼れる。
禁酒と暑さを我慢できる方には、イランはおすすめです。イラン人は、みんな話好きで、フレンドリーです。今回は余裕がなかったが、イスファハーンなど世界遺産もあり観光もきっと楽しいでしょう。
私もlesbia、リベンジ。
カナダ・オンタリオ州
2007年8月22日〜27日
22日、15時50分、トロント空港着。レンタカーを借りて東のPeterboroughを目指す。今回の採集は、Catocala relicta(日本のムラサキシタバの帯が白い)が第一目標。Peterboroughには記録があり、街の東にあるMark
S. Burnham Prov. Park に20:00ころ着いた。
カナダの日没は遅く、ちょうど日が暮れ始めているところで、急いでバナナトラップを60くらいしかける。バナナトラップは、バナナと酒を腐らせてパンストに入れたクワガタトラップと同じもの。
カナダの市街地に近い公園は、雑木林がよく保存されており、木も太い。 日本の公園のように下刈りをしているのではなく、そのまま残してある。さいたま市の秋ヶ瀬公園のような公園が多い。何人か散歩している人と会い、怪しまれるのを恐れながら、しかける。
21:00にようやく暗くなり、見回りを始める。すぐにC. cerogama(日本のオオシロシタバの帯が白い)を発見する(写真)。カナダのカトカラにも日本式のトラップが効き、一安心。その後は、cerogamaばかり、10頭以上見るが、他はC.
unijuga(ベニシタバの一種)が2頭のみ(写真)。
駐車場で、涼んでいる?おじさんに話しかけれる。フレンドリーで、採集品を自慢した。
23日、やはりrelictaの記録のあるさらに東のTweedへ。大きな街はなく、公園はない。畑と牧場ばかりが続き、大きな雑木林は探しにくい。Marlbankに近い牧場の雑木林にバナナトラップをしかける。場所はよいと思ったのだが、cerogamaが5、6頭来たのみだった。
ある程度、遠くだが、ずっと犬が鳴いていて不気味だった。また、小道の脇は常にNo Tressingの札があり、どんな田舎でも雑木林の所有意識が強く、日本の感覚で勝手に入ると怒られそうである。
天気の条件はよいのに、この2晩でrelictaが来なかったので、少し時期が早いのでは、と考え、次の日は北へ向かって走ることにする。有名なAlgonquin
Prov. Parkを目指すことにする。
24日、Algonquin Prov. Parkへ向かう。北に向かうと畑や牧場は減り、自然林が多くなってくる。しかし、針葉樹の割合が多くなり、カトカラには? Algonquin Prov. Parkは広大だ。ゲートがあり、厳しく管理されている。トラップがゴミと間違えられる可能性もあり、また門限もあり、州立公園内の採集は断念。
ゲートのそばにある公園のビジターセンターの展示を見に行く。ブラックベアが多産しているらしいが、ヒグマに比べれば小さい。でも、バナナトラップに来ていたらかなり怖いなぁと思う。オオカミも並種らしい。でもトラップには来ないだろうと自分に言い聞かせる。
ゲートの外で、トラップの場所を探すことにするが、前2日とは違う感じの場所、具体的には水辺のそばでrelictaの食草であるヤマナラシ類を探すことにする。また、シラカバに適応した白い前翅があることから、シラカバも意識することにする。
ゲートの数百メートル手前の小道を入ってみると、さらに小道が作ってある。湖(Mud Bay)のそばは、ヤマナラシらしい木、シラカバが多い。ただ木はそれほど太くなく、また、他の広葉樹は少なく、針葉樹が多い(写真)。
ガの種類は少なそうだが、relictaを考え、今日はこの小道でトラップをしかけることにする。
ここの所有者らしい老人がいた。馬を乗せた車が駐車してあったので、乗馬のための小道だとわかった。フレンドリーで、虫にも理解があった。蝶を寄せるためのトラップ用の棚も見せてくれた。付近の馬糞にキベリが来ていた。クマが出ないか老人に確認しようとしたのだが、私の英語力のなさから、クマをぜひ見たいと思ったらしく、詳しく場所を説明してくれた。車で10分くらいのところらしい。クマ、ヘラジカなど動物に関するフィールドノートは、たいへん詳しく、いろいろ話をしてくれた。
湖のそばに老人が作ったのか、木のテーブルと椅子が。座ってサンドイッチを食べながら、ふと見ると、テーブルに「勇敢な馬乗り、享年46歳に捧ぐ」という文字があった。老人の息子であろうかと思った。静かに日が暮れていくが、北に来たためか昨日より少し気温が低そうだ。
しかけたトラップを見回り始めるがまったく虫がいない。カトカラはもちろん、他のガも、甲虫もカも虫が1頭もいない。20個を超えたくらいであろうか。relictaが後翅を半分見せながらとまっていた。ネットで採ろうと思ったら、少し飛んだが無事キャッチ。小学校時からの憧れのガの一つだったので、久しぶりに手が震えた。完品。
さらに10個くらいはやはり何もいなかったが、またrelictaがとまっていた。またネットで採る。やはり完品。時期はよいようだ。
それから残りを見回るが、まったく虫はいない。見回り終わるころぽつぽつ雨が来たのだが、突然の嵐に。少し小高い所で、燈火をやろうとも思っていたのだが、退散。結局、トラップに来た虫は、relicta2頭のみだった(写真)。
25日、南へ向かい、Peterbrough Kawarthasへ。湖、湿地、林などが続くが、トラップに適したような道は個人が作った私道がほとんどのようで、ゴミを捨てると罰せられるとの看板も多く、バナナトラップを仕掛けるのは厳しい。もちろんトラップは回収するのだが、トラブルは避けたいところ。
今夜は糖蜜をあきらめ、Mount Julianへ向かう道で灯火にする。誘蛾灯6W4本。場所は悪くないと思ったが、月が大きく、また風も結構強く、飛来は少なかった。カトカラはゼロ。きれいなヒトリガを2頭。
採集後、トロント空港へ。レンタカーを返し、ビールを買っていすで一杯。relictaが採れてよかった、よかった。
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